2025年4月

アニマ・クリスティ
 キリストの魂が、わたしを清め
 キリストの体が、わたしを養い
 キリストの血が、わたしを酔わし
 キリストのみ脇から滴る水が、わたしを洗い
 キリストの受難が、わたしを強めてくださるように。
 善の源であるイエスよ、わたしの祈りに耳を傾け
 み傷の内にわたしを隠してください。
 すべての悪からわたしを守り
 常に、主を離れることがないように。
 臨終のときには、わたしをみもとに招き
 諸聖徒と共に永遠に主を賛美することができますように アーメン

 これは六年前に亡くなったわたしの父が大事にしていた「アニマ・クリスティ(キリストの魂)」という祈りです。ご葬儀後のご挨拶の中にもこの祈りを入れました。少々古い訳かもしれませんが、わたしは父が常にこの祈りを携帯して司祭職を務めていたことを時折思い出します。先日園長・チャプレン協議会に参加されていた越山健蔵司祭もこの詩を手帳に挟んでいらっしゃいました。同じ東北教区の聖職方の霊性を垣間見させていただいた思いがしました。
北海道教区事務所の階段の踊り場には、「聖痕」という絵(田中忠雄作、一九五五年)が掲げられています。そこにはキリストがご自分の服を開いてトマスにご自分のお腹の痛々しい傷を見せている場面が描かれています。その服を開いている手にも、もうひとつの手にも傷があります。キリストは御復活されてもなお、その傷を傷のままで弟子たちにお姿を現してくださったことの恵み深さにわたしはいつも驚愕します。
 アニマ・クリスティでは、その傷のうちにわたしを隠してくださるようにと祈るのです。わたしたちの痛みや悲しみや傷に深く共感し、またいやしてくださるのはキリストだけだからです。傷のある御復活のキリストが皆さんをいやし、養い、支えてくださいますようにと祈っています。

主教 マリア・グレイス笹森田鶴

2025年3月

 去る二月二二日、第四九回東北教区婦人会総会の開会聖餐式の説教者、また午後のセーフチャーチの学びの会の話者の一人として仙台に行ってまいりました。もう一人の話者は吉谷かおるさん(札幌キリスト教会信徒、管区女性デスク、セーフチャーチ・ガイドラインタスクチーム、チーム・北国コアメンバー)です。
 開会聖餐式には婦人会以外の方々も参列され、午後の東北教区ハラスメント防止・対策委員会との共催の会には五〇名ほどの方々がお集まりくださり、長い時間熱心に耳を傾けてくださいました。婦人会だけではなく、他の組織とコラボレーションしながら、研鑽を積んでいこうとされるそのご姿勢と熱意にわたし自身大いに励まされました。
 今、婦人会や他の女性たちの集まりは大きな岐路にあります。東北教区婦人会では現在三教会のみが加盟教会だと伺いました。北海道教区でも組織の維持という点では非常に難しい状況です。それでも日本聖公会全体に亘る女性たちのネットワークという点で婦人会は類を見ない存在であることは事実です。またGFSも小さいグループでありながらも世界へのネットワークの中で三年に一度世界大会を開催し、各国の聖公会の女性たちへ支援を行っているという独自性を持っています。
 今後この女性たちの貴重なネットワークがゆるやかにでも続いていく方法はないものかとずっと考え続けています。そして役員として悩みながら尽力してくださっている方々のために祈っています。
 仙台での会合を終え、それぞれの行き先に向かう途中、中部教区のマーガレット渋川良子司祭さまが逝去されたとの一報を受けました。婦人会やGFSがずっと願い、支えてくださった女性の司祭按手実現の先頭にい続け、その厳しさも喜びも教えてくださった、女性で日本聖公会の最初に執事按手・司祭按手を受けられた方です。「女性たち」とともに今の歴史を作ってきたことを大切なこととして記憶したいと思いました。

主教 マリア・グレイス笹森田鶴

2025年2月

 教区会主教告辞でも触れましたが、世界の聖公会では現在「セーフチャーチ」への取り組みが積極的に行われています。これは二〇一九年の第一七回全聖公会中央協議会(ACC)の勧告によるものです。すべてのアングリカン・コミュニオンの人びと、ことに子ども、青年、弱い立場のおとなの安全を高めることを目的としています。そのための日本聖公会版のガイドラインが管区のセーフチャーチガイドラインタスクチームによって整備されている最中です。
 教会という場所が誰にとっても安心安全な場所であることは、教会内だけではなく社会的にも期待されていることです。けれども大変残念なことに、教会の中で安全ではない状態が現実に起こります。その背景には、教会の中にある力関係への無自覚さや率直に意見を分かち合うことができない雰囲気、「赦し」への誤解など、どの管区・教区にも当てはまる構造や体質、また考え方があると指摘されています。例えば力関係という時に、聖職と信徒、聖職の中での職位、教会での役職、また先輩・後輩などの年齢・経験、信仰歴の長さ、民族、ジェンダー、SOGI(性的指向Sexual Orientationと性自認Gender Identity)、学歴、経済力、社会的地位などが挙げられます。最初に挙げられた項目では、教区主教が一番力関係について自覚的にあらねばならないということを改めて心します。そして実際に起こっていることに関わり続け、課題とし続けることの重要性を覚えます。
 さまざまな背景をもつ人びとが相互に信頼をもって教会が形成されていく姿は、社会に向けての大切なモデルの提供につながります。そのためには、主の霊によってわたしたちは新しく日々変わっていきたいと、教区に連なるお一人おひとりと共に祈り、学び、聴き合うことが必要になりましょう。皆でセーフなチャーチへと進んでいきたいと心から願い求めます。

主教 マリア・グレイス笹森田鶴

2025年1月

 二〇二二年十一月定期教区会において、東北教区・北海道教区宣教協働タスクフォース(もともと軍事用語であるという理由で後にタスクチームと変更)が「チーム北国」という名前で設置され、両教区の宣教協働と教区再編の課題とヴィジョンを明確化し、ロードマップを一年間検討しました。翌年二〇二三年の教区会においては、チーム北国の二〇二八年教区会までの五年間の活動延長と、構成員拡大が決議され、加えて東北教区・北海道教区宣教協働・教区再編に向けてのミッション・ステートメント二〇二三が採択されました。次のような内容です。
 「今こそ、恵みの時、今こそ、救いの日です。(二コリント六:二b)
私たちが一つになることで目指すのは、多様性を積極的に受け止め、弱さの中で福音を宣べ伝え、行きづまりの中で宣教的視点を転換する福音の実践です。そのために、祈りと協働をもって、東北と北海道の人びとが持つ痛みと喜びを分かち合います。東北教区と北海道教区は、一つの教区となるビジョンを共有します。また、あらゆる分野で宣教協働の取り組みをします。」
 これが昨年二〇二四年教区会においては教区再編から一歩進み、明確に新教区設立に向けてのミッション・ステートメント二〇二四として採択されました。
 二〇二五年は、東北教区の方々との三年後の新教区設立に向けて、具体的な新教区のイメージを信徒・教役者の皆様と共有していく年となります。例えば、新教区名の決定、主教座聖堂の選定、教区事務所機能、また主教巡回や教役者人事異動などについて、これまでの協議に加えて検討していく段階に入ります。多くの皆様のご意見やご質問などを、わたしや教区事務所、また各教会・伝道所の牧師にどしどしお寄せください。チーム北国に必ず伝えます。

主教 マリア・グレイス笹森田鶴